体験談
武井紀子(Ms Noriko Takei)
2008年度エンデバー研究フェローシップ受賞者 / 大阪大学
留学先: マッコーリー大学(Macquarie University)
専攻: 言語学
「オーストラリア」を研究テーマに選んだ理由
近年、国際化と情報技術、交通の発達により海外はより身近なものとなり、短期、長期、永住といったさまざまな形態で海外に在住する日本人が増加しています。外務省の統計によるとオーストラリアは、アメリカ、中国、英国に次いで4番目に邦人数が多いと報告されており、ワーキングホリデーや移住先として若年層から中高年齢層まで人気の高い国です。
渡豪する日本人の方々のバックグランドは異なりますが、日本では多数派に属する人々が、オーストラリアのような多民族社会の中で少数派の一民族として日々の生活においてどのような言語生活を送っているのか、彼らの母語である日本語に対する意識を明らかにし、ことばとアイデンティティがどう関わっているのかを知りたいと思いました。日本にいれば日常生活で「自分が何者か」などあまり考えることはありませんが、多民族社会に身をおくと考えざるを得ない状況になるのではないかと思うのです。
オーストラリアは、距離的にも地理的にも日本から比較的往来しやすく幅広い年齢層に人気があること、そして中学時代に知り合ったオーストラリア人のペンパルを通して始めて外国の空気に触れ、オーストラリアの人々と交流するようになったことが契機となりオーストラリアは私にとって最も親しみを感じる国になりました。このような理由からオーストラリアを研究のフィールドとして選びました。
オーストラリア政府奨学金「エンデバー奨学金」との出会い
研究テーマが見つかり、現地に赴いてフィールドワークを行ないたいという一心から、オーストラリアの奨学金関係をインターネットで調べ、「エンデバー奨学金」を知りました。難関は承知でしたが「エンデバー研究フェローシップ」に応募しました。
留学先のマッコーリー大学ではフィールドワークを行いましたが、エンデバー奨学生ということが信頼につながり、多くの人にご協力いただきました。人との絆を築くことが研究の第一歩であり、主幹でもあります。「エンデバー奨学金」によってその門戸が開かれました。
留学先で学んだこと
マッコリー大学では先生方の学生に対する指導が非常に熱心で、学生も自分の意見をしっかり持って先生と話し合いながら研究を進めていく姿が印象的でした。私はほとんどフィールドワークに徹していましたが、それについて先生方や他の学生から意見をいただき大変参考になりました。また自ら主張すべきことは主張し行動を起こさない限り、手を差し伸べてくれることはないことも学びました。疑問に思うことは、納得するまで訊く姿勢が大切です。
留学先での体験
半年の間にオーストラリア人、日本人の方々を含めて実に多くの方々にお世話になりました。この短期間に体験したことはこの体験談では書ききれないくらいあります。オーストラリア人の家庭に滞在しながら、日本人家庭やオーストラリア人、韓国人とご結婚されたご夫婦の家庭にホームステイをさせていただいたことで生活習慣やライフスタイルの違いなど、日本人だけでなく現地の人と生活することによってさまざまな世界に触れられたことはオーストラリア社会を客観的に捉える上で大変有意義な体験でした。
さらに研究において最も大切なことを自分の身をもって知ることができたことをありがたく思います。それは調査に協力してくださる方々に対して真摯な姿勢と感謝の気持ちを忘れないことです。私が出会った人々は皆初対面でしたが大変親切に接してくださり、いろいろと教えてくださいました。最初の数ヶ月はなかなか調査が軌道に乗らず半ば落ち込む日もありましたが、少しずつネットワークが広がりアンケートやインタビューに予想以上の人々が協力してくださいました。その方々との出会いを通じて日本人コミュニティを自分の目で観察し、感じ取ることができたことはこの上ない私の財産です。
特に印象的であったのは日本人移住者のパイオニアである戦争花嫁の方々が50年以上現地で生活しオーストラリアの生活に溶け込んでいらっしゃるにもかかわらず日本人であることを誇りに思い、生まれ育った価値感や文化を大切になさっていることでした。ある方は日本人であれば親しい人でも苗字で呼ぶということを徹底されていましたし、日本からやって来た一人の学生にしか過ぎない私に、すし、天婦羅、煮物などの料理、またはオーストラリアの料理を作って迎えてくださいました。
実際に現地に赴いて自分の足で歩き、自分の目で確かめること、そして人との出会いを大切にすることなど半年の滞在で多くのことを学びました。
オーストラリア留学を将来に生かしていきたい
日本もこれから一層多文化社会、多言語社会になると考えられますが、日本の言語政策や異文化理解教育においてオーストラリアに学ぶべきものが多いにあります。将来は日本国内に在住する外国人コミュニティの言葉や教育の問題に取り組むような活動に関わることができれば幸いです。



